身体拘束最小化に向けた当院の取り組み

当院は、すべての患者さんが尊厳を保ちながら安全に治療を受けられる環境を整えることを大切にしています。身体拘束(抑制帯やミトンなどの用具、または薬剤によって、一時的に患者さんの体の動きを制限すること)は、患者さんご自身や周囲の患者さんの安全を守るために、やむを得ず検討される場合がありますが、身体的・心理的負担が大きく、患者さんの権利を制限する重大な行為です。そのため、当院では身体拘束を「最後の手段」と位置づけ、最小化に向けた取り組みを病院全体で推進しています。

当院は、厚生労働省の方針(令和6年度診療報酬改定で定められた「身体的拘束最小化の基準」)に基づき、院内に身体的拘束最小化チームを設置し、身体拘束最小化のための指針を定めています。身体拘束を行う場合は、「切迫性(生命や身体に危険が及ぶおそれが著しく高い)」「非代替性(拘束以外に方法がない)」「一時性(必要最小限の期間にとどめる)」の3つの要件をすべて満たしていることを確認したうえで、医師の指示のもと、患者さんご本人またはご家族に十分に説明し、同意をいただいてから実施します。また、拘束を行っている間も、その必要性を毎日多職種で検討し、できる限り早く解除することに努めています。

急性期医療の現場では、病状の急な変化や治療の複雑さから、患者さんが不安や混乱を抱えることも少なくありません。そのような場合でも、私たちはまず、環境調整(ベッド周りの整備や照明の工夫など)・こまめな声かけ・多職種による連携・ケアの工夫など、身体拘束に代わる方法を検討し、最大限に活用することで、患者さんの安全と尊厳を両立させることを目指しています。

このページでは、身体拘束の最小化に向けた当院の基本的な考え方をご紹介します。ご不明な点やご心配なことがありましたら、遠慮なく担当の医師や看護師にお尋ねください。患者さんとご家族の理解と協力を得ながら、より安全で、患者さん本人の意思が尊重された医療の提供を実現するために、今後も継続的に改善に取り組んでまいります。

身体拘束に対する当院の基本方針

  1. 身体拘束の定義

    身体抑制とは、「衣類又は綿入り帯等を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限を言う」
    (昭和63年4月8日厚生省告示第 129 号における身体拘束の定義)
    当院では、用具や薬剤を用いて一時的に身体を拘束しその動きを抑制することで、行動の制限をすることを言う。

  2. 身体拘束における倫理的課題と医療安全の視点と考え方

    日本国憲法では、「第 11 条において国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」とされており、看護師の倫理綱領第 1 条では「看護者は人間の生命・人間としての尊厳及び権利を尊重する」とされている。この基本的人権と尊厳を損なうことが倫理的な大きな問題であると考える。一方、医療現場で安全を守ることは医療行為の基本的原則であり、転倒・転落、計画外抜去が想定される状況を放置することは、医療の倫理原則において無危害の原則に反する行為であると考えられる。臨床においてはこの倫理的ジレンマを常に抱えているからこそチームで最善のケアを検討していく必要がある。

  3. 身体拘束最小化に向けた方針

    1. 身体拘束は原則的に実施しない。やむを得ず安全対策上必要と判断した場合に限り、厚生労働省の方針に基づき「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件を満たすことを確認し、医師の指示のもと本人または代理人・保護者の同意を得て実施する
    2. 「身体拘束は人間の尊厳に関わる重大な問題である」という基本的倫理観を持つ
    3. 身体拘束の必要性があると判断された場合であっても、身体拘束以外のより緩やかな手段が考えられればそれを選択する
    4. 可能な限りの危険予知と危険回避を講じ、こうしたリスクについて本人及び代理人・保護者に理解していただけるように説明する

Ⅱ.身体拘束とは

  1. 身体拘束の適応

    1. 治療や生命の維持に必要なチューブを抜いてしまう可能性がある場合
    2. 治療上必要な安静や運動制限を守ることができない場合
    3. 転倒・転落等による生命の危機、病状の悪化を来す恐れがある場合
    4. 自傷・他害(暴力など)が見られる場合
    5. 治療上必要な検査や処置を実施する際に鎮痛・鎮静目的に使用する薬剤の影響等で安全に実施する事が困難な場合
  2. 身体拘束の3原則

    身体拘束は、緊急やむを得ない場合「切迫性」「非代替性」「一時性」の3つの要件を満たしている場合実施する

    1. 切迫性:患者本人または他の患者の生命及び身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと
    2. 非代替性:身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替するケアの方法がないこと
    3. 一時性:身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること
  3. 身体拘束における弊害とリスクマネジメント

    1. 身体拘束による弊害

      身体拘束は、人権擁護の観点から問題があるだけでなく、患者の QOL を根本から損なう危険性を有しており①身体的弊害(関節拘縮・筋力低下・食欲低下等)②精神的弊害(尊厳の侵害・認知症の進行・家族の罪悪感・職員のモチベーションの低下)③社会的弊害(社会的不信・偏見・医療費の増加による経済的損失等)を招く恐れがある。また、身体拘束によって行動が制限されることで、自力での体動が困難となり、嘔吐等が起こった場合に、横を向くなどの自己防衛手段をとることができず、窒息等の重大な合併症を引き起こす恐れがある。

      表1.身体拘束による身体的弊害

      種類 方法 実施中に起こりうる合併症
      薬剤 興奮を和らげるために鎮静薬を使用する 呼吸が弱くなったり血圧が低下する可能性がある
      誤嚥しやすくなり肺炎を起こす可能性がある
      体幹ベルト
      車いすベルト
      体幹部や車いす乗車中にベルトを装着し、転落を予防する 腹部の圧迫による嘔吐
      圧迫による皮膚の障害・神経障害・循環障害
      4点柵 鍵のついたつなぎ型の寝衣で、チューブ類に手が届かないようにする 柵の間に手足や首を挟んでしまう可能性がある
      安全着 手を包み、チューブ類に手が届かないようにする
      手袋(ミトン) 手を包み、チューブ類がつかめないようにする 圧迫・摩擦による皮膚障害・神経障害・循環障害
      手足の固定 片方または両方の手・足を固定する 圧迫・摩擦による皮膚障害・神経障害・循環障害
    2. リスクマネジメント

      1. 拘束具による弊害を十分に考慮し、二次的障害(循環障害、神経障害、機能障 害、成長発達遅延、 皮膚の損傷、誤飲や窒息など)を防止する。(表2参照)
      2. チューブ類の自己抜去に注意しながら良肢位を保持し、体位変換などを行い褥瘡と関節拘縮を予防する。拘束はできる限り短時間で必要最小限の部位と範囲 にする。
      3. 家族や家族に準ずる方の面会や看護職員が見守るとき等は拘束具を一部もしくは全て外し、身体的苦痛・精神的ストレスの軽減を図る。必ず家族等に拘束 具を外すことによる危険性、目を離さないことを説明し、承諾が得られた場合 のみとする。患者のもとを離れる場合は、看護師に声をかけるように説明する。
      4. デバイスの自己・事故抜去を予防する目的で身体拘束を行う場合は、身体への挿入物と身体拘束の必要性・治療の優先順位をアセスメントし、切迫性の検討 をする。(表3参照)
      5. 弊害を回避するためにも身体拘束を一部または全て外すことの是非について、 毎日多職種で検討する
    3. 小児患者への注意事項

      小児では成長発達の特徴として、①摘まむ。②手を顔、口に持っていき落ち 着きたいという欲求があるため、身体拘束を行うことで落ち着かなくなってしまうことがある。そのため、成長発達を考慮し、拘束方法を保護者と共に検討し最 低限の実施とすることが重要である。

      表2.弊害とその対策

      二次的障害 対策
      末梢循環障害
      • 運動麻痺、知覚障害、皮膚の色調、疼痛、脈拍触知の有無を観察する
      • 最低でも2時間ごとに拘束部位の圧迫を一時的に解除する
      • 拘束実施時に、末梢の動脈を触れ、過度な圧迫がないことを確認する
      深部静脈血栓
      • 下肢を拘束する場合は、血栓の発生に留意して観察する
      • 弾性ストッキング着用の場合には長時間の拘束は避ける
        • 血栓があることがわかっている場合には拘束はしない
      皮膚障害
      • 拘束部位の皮膚の色・状態・疼痛の有無を観察する
      • 最低でも2時間ごとに拘束部位の圧迫を一時的に解除する
      • 必要時、拘束具と皮膚の摩擦を防止するために保護フィルム等を使用する
      神経障害
      • 拘束部位のしびれ・末梢部位の動きの観察を行う
      • 最低でも2時間ごとに拘束部位の圧迫を一時的に解除する
      誤嚥・窒息
      • 食事摂取時は抑制を解除し、必要時看護職員が付き添う
      • 食後2時間は状態を起こした体位とし、嘔吐を予防する
      • 必要時生体モニターによる監視を行い、呼吸状態の変化を厳重に観察する
      • リスクの高い患者については訪室する回数を増やし、観察を強化する
      精神的弊害・社会的弊害
      • 身体的障害のみに注目せず患者の表情、言動に注意し拘束によるストレスの程度を推測する
      • カンファレンスにより拘束解除が可能か毎日検討する
      • 面会者の協力を得ながら一時的解除の回数を多くする等計画を見直す
      • ストレス潰瘍の発症の可能性も考慮し、消化器症状の有無を観察する
      • せん妄予防に努めるとともに、せん妄を発症した場合は一時的な症状であることを面会者にも説明し、日常に近づけるようなケアを行う
      • 生体モニターによる監視が必要な状況
        • 嘔吐のリスクがある
        • 喘息発作や舌根沈下等で気道が閉塞・狭窄しやすい
        • 痰が多い
        • 鼻・口腔内の出血のリスク
        • 嚥下障害がある(きざみ食・ソフト食の患者)
        • けいれんのリスクがある

      表3.身体拘束・治療の優先度の関係性

      身体への挿入物について 身体拘束の必要性
      1 看護師が再挿入可能であり、再挿入の侵襲性が比較的低い 低い
      2 看護師が再挿入可能であり、再挿入の侵襲性が高い やや高い
      3 医師が再挿入可能であり、再挿入の侵襲性が高い 高い
      4 医師の再挿入が困難であり、再挿入の侵襲性が高い 非常に高い